コラム

ロイヤー・スズキの面白事件ファイルVol.2

2017年09月27日

2017年 9月28日 ロイヤー・スズキの面白事件ファイルVol.2

「ロイヤー・スズキの面白事件ファイルVol.2」は
「交通事故の被害者が、加害者の自賠責への保険金請求権の差押え、転付命令の取得?」です。

1 仙台市内に住み会社を経営している50歳の男性が、夕方道路を横断中に
40歳の主婦が運転する軽自動車に跳ねられて大怪我し、2か月程入院治療を受けました。
しかし、加害者の主婦は、自賠責保険に入っているだけで、任意保険には入っていなかったので、
被害者は、治療費を自己負担し、症状固定後も慰謝料や休業損害の支払いもしてもらえないということで
相談に見えられました。

2 加害者の自宅に行っても応対してもらえず、会社員の夫に掛け合ってもらちが明かず、
挙げ句の果てに離婚したのでもう来ないで下さいと門前払いを受けたということでした。
そこで、依頼を受け、当職が被害者代理人としてあらためて加害者に連絡しましたが、いい返事はありませんでした。
その後、損害額を積算すると、1000万円位になりましたが、
自己破産されると免責されるので(人損は故意又は重過失による損害賠償請求権以外は免責される)、
その旨相談者に伝えたところ、どうしても納得できないということで、訴訟を提起することになりました。
この時点で、自賠責の傷害部分(上限120万円)の被害者請求は、
事故日から2年経過していたので、既に消滅時効が完成していました。

  3 提訴すると被告加害者も弁護士に委任して応訴して来ました。
損害額や過失割合の争点が整理された後、和解の話し合いになりましたが、
被告加害者からは、およそ納得できる和解案の提示はなく、
結局判決となり、「被告は原告に対し、金700万円を支払え。」との判決が言い渡されました。

4 判決が出て確定した後、原告被害者は、判決書を持って、
実家に戻っているという被告加害者に掛け合いましたが相手にしてもらえず、
離婚した元夫に面会を求めても拒否されてどうにもならない状況になりました。
私の元にも何度か相談に来ましたが、被告加害者に資力がない以上、
残念ですがどうにもなりませんというしかありませんでした。

5 そういう状況の中で、被害者から私に、自賠責への被害者請求はどうなっているんですかとのお尋ねがありました。
前記の通り自賠責への被害者請求権は、時効の中断もなく消滅時効にかかっていましたので、
瞬間的に依頼者への弁償や弁護士賠償責任保険が頭をよぎりました。
まいった隙間をつかれた、しょうがないかと覚悟を決めかかった時、
当事務所の新人弁護士に本件を話したところ、新人弁護士は、文献を調べて、
「加害者の自賠責への保険金請求権は、被害者に弁償して初めて行使可能になるのでまだ消滅時効が進行していません。
被害者は、この加害者の停止条件付き請求権を確定判決で差押え、
転付命令を取得することにより自賠責から保険金を回収することが可能かも知れません。」と助言をもらいました。
最高裁も「自賠責保険契約に基づく被保険者の保険金請求権は、
被保険者の被害者に対する賠償金の支払を停止条件とする債権であるが、
自賠法3条所定の損害賠償請求権を執行債権として
右損害賠償義務の履行によって発生すべき被保険者の自賠責保険金請求権につき転付命令が申請された場合には、
転付命令が有効に発っせられて執行債権の弁済の効果が生ずるというまさにそのことによって
右停止条件が成就するのであるから、右保険金請求権を券面額ある債権として取り扱い、
被転付適格を肯定するのを相当とする。」と判示していました。
正に9回裏の逆転サヨナラホームランでした。

6 その後、被害者は債権者となり、加害者を債務者、自賠責保険会社を第三債務者として
「債権差押え及び転付命令申立」をして、転付命令を取得しました。
その後、更に被害者は原告となり、自賠責保険会社を被告として、
金120万円の支払いを求めて「転付債権支払請求訴訟」を提起し、
請求通りの判決が出て、金120万円を回収して被害者に送金しました。
何とかリカバリーすることができ、正に胸をなでおろした次第です。

以上