コラム

【法務コラム】外国に住んでいる被告に対する訴訟

2020年02月14日

日本国内におらず外国に住んでいる人を相手とする訴訟を起こすことができるのでしょうか。


いくつかの条件をクリアする必要がありますが,結論としてはできます。
しかし通常の訴訟と比べると信じられないくらいの時間がかかる場合があります。


Aさんは仕事の関係でB国に行き,現地で通訳をしてくれるB国籍のCさんと仲良くなりました。
あるときCさんから,日本で仕事をしたい。しかし日本で働ける在留資格(ビザ)を取るのが難しいので,
一緒に日本に行って結婚したことにしてくれないかと言われました。

もちろん本当の夫婦になるつもりがなく,ビザを取らせるために結婚することはいわゆる偽装結婚であり,刑法や入管法に違反する違法な行為です。
しかしながら,Aさんはそのような重大なことになるとは考えず,安易に協力してしまいました。

Cさんは来日して「日本人の配偶者」のビザを取り,AさんとCさんとは同居することはなく,それぞれの生活を送っていました。
ところがある日,Aさんのところに警察官が来て,Cさんがある事件で逮捕されたこと,その捜査の過程で偽装結婚を認めたことなどを伝えました。
偽装結婚がばれてしまったのです。
Aさんは公正証書原本不実記載という罪で略式処分を受け,罰金刑となってしまいました。

Cさんも有罪判決を受けて国外退去となりB国へ帰り,やれやれと思っていたところに今度は区役所から通知が届きました。
区役所からの通知には,戸籍の記載が不法の届出によりなされたものであるから,
家庭裁判所で婚姻無効の裁判を起こした上で戸籍訂正の申請をするようにとありました。

Cさんはもう日本にはいません。
おそらく当分の間日本に来ることはできないでしょう。
それでもCさんを相手に婚姻無効の裁判を起こさざるを得なくなってしまったのです。

Aさんの弁護士は現地法人のスタッフから聞き出したB国内のCさんの住所を訴状の当事者欄に記載して訴状を裁判所に提出しました。

このような国際的な事件の送達に関する条約や協定がある国であればその規定にしたがうことになります。
また,最高裁判所から外交ルートを経由して相手国の「当局」に送達を依頼することもあります。
具体的にどのようなルートで送達するかは裁判所が決めます。

送達にかかる時間はルートによりますが,数か月から場合によっては1年ということもあるようです。
Aさんのケースでは,裁判所は中央当局を経由した送達に6か月程度かかると見て,
所在不明で送達できなかった場合も考慮し,第1回期日を訴状の提出から1年後に指定しました。

海外にいる被告に対する訴訟は何より根気が必要です。

(弁護士 長尾浩行)
※この記事の内容はメールマガジン2019年1月号に掲載した内容と同一です。